カレーの芳醇な香りが鼻腔をくすぐる。湯気とともに立ち上るその匂いは、どこか懐かしく、遠い記憶の扉をそっと開くような優しさを持っている。
目の前に置かれた「カレー南ばん」の器には、黄金色のとろみを帯びたスープが湛えられ、艶やかな表面にはわずかな泡が浮かぶ。
その奥には、たっぷりの鶏肉とネギが埋もれ、食べる者を静かに待ち構えている。
まずはレンゲをそっと沈め、スープをすくい上げる。粘度のあるカレー出汁がゆっくりと流れ、レンゲの上でとろりと揺れる。
個人的評価点数
ひと口含めば、その熱さに驚かされる。慌てて息を吹きかけるが、それでもなお舌を包み込むほどの熱量を持っている。
しかし、それこそがこの一杯の真髄である。じっくりと炊き出された出汁の旨味がカレーのスパイスと溶け合い、深みのある味わいとなって舌の上に広がる。
決して辛さを前面に押し出すのではなく、どこか優しく、心の奥に染み渡るような温かみがある。
麺を持ち上げると、その表面にはカレーのとろみがしっかりと絡みついている。細めながらもコシのある麺が、スープと一体となって口の中へと滑り込む。
噛めば小麦の香りがふわりと立ち、カレーの風味と重なって絶妙なハーモニーを奏でる。そこへ柔らかく煮込まれた鶏肉が加わることで、一層の深みが増す。
弾力のある肉質は噛むごとに出汁の旨味を滲み出し、シンプルながらも完成された味わいを生み出している。
ネギの存在も欠かせない。噛むたびにシャキッとした歯応えが心地よく、時折感じるほろ苦さが、甘みを帯びたスープに対するアクセントとして機能する。
その絶妙なバランスこそが、この一杯を飽きのこないものにしているのだ。
このカレー南ばんは、じっくりと時間をかけて味わうべき一杯である。その熱さゆえに、一気に食べることはできない。
しかし、それこそがこの料理の良さでもある。慌ただしい日常の中で、ひとときの静寂を味わいながら、この一杯と向き合う。
それは、まるで時間そのものがゆっくりと流れ始めるような感覚だ。
ただし、この店には独自の流儀がある。たとえ客が少なくとも、相席になることがあるのだ。
見知らぬ人と向かい合うことに抵抗がある者には、少々落ち着かないかもしれない。
しかし、そんな環境もまた、この店の魅力の一つである。カレー南ばんの湯気の向こうに、ふとした会話が生まれることもあるかもしれない。
この一杯には、ただの食事を超えた物語が詰まっている。カレーの香りとともに、誰もがそれぞれの思い出を呼び起こすような、そんな不思議な力を持つ料理である。
お店の詳細
- 定：無休
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